不動産特定共同事業法(不特法)
不動産特定共同事業法(不特法)とは、複数の投資家から資金を募り、その出資金で不動産の売買や運用することで得られた収益を投資家に分配する事業の仕組みを定めた法律のことを指します。
この法律は1995年4月に施行され、不動産クラウドファンディングのように同法に基づく事業を行うためには、原則として国土交通大臣等または、都道府県知事の許可を受けなければならないと定められています。
不動産を資産としてファンドを運用する際にも本法律の規制対象となります。
投資家が不利益を被らないためにも、不動産特定共同事業法への理解を深めておく必要があります。
本ページでは、不動産特定共同事業法の概要をはじめ、数度の法律案改正を経てどのように変更があったのか詳しく解説します。
不動産特定共同事業法(不特法)とは
不動産特定共同事業法(不特法)とは、出資額を小口化した不動産について投資家から出資を募り、売買・賃貸などの運用を行い、その収益を投資家に分配する事業について定めた法律です。不動産クラウドファンディングなどの事業主の適切な業務運営を確保するとともに、投資家の利益保護が目的として施行されました。
この不動産特定共同事業には、以下の事業形態が挙げられます。
- 任意組合型
- 匿名組合型
任意組合型とは
投資家が出資した金額に応じた不動産の共有持分を購入して、所有する共有持分を組合に現物出資する形となっています。事業者と任意組合契約を締結し、事業者は組合の代表として不動産の管理・運用を行います。現物出資をする形式となるため、不動産の所有権は投資家にあります。登記簿にも、投資家の名前が記載されるのが特徴です。
収益の分配金は不動産所得となるため、相続税や贈与税の節税対策として有効です。
節税対策や、複数の物件に分散投資できるのもメリットのひとつです。
匿名組合型とは
投資家が事業者と匿名組合契約を結び、組合に金銭を出資します。その出資をもとに事業者は保有する不動産を賃貸などで運用して、収益を事業者と投資家の出資割合に応じて分配するという形式です。任意組合型と異なり、投資家に所有権がなく、収益の分配金は雑所得となるので課税の対象となります。
不動産クラウドファンディングではこの匿名組合型が一般的です。少額からの投資が可能な商品も多く、ほとんどの事業者が「優先劣後方式」を採用しているため、万が一収益減少や損失が出た場合でも、事業者が出資した割合まで先に負担することになりますので、投資家の元本の安全性がより高い投資方法といえるでしょう。
任意組合型と匿名組合型の比較
任意組合型 | 匿名組合型 | |
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事業主体 | 出資者(共同事業) | 事業者 |
出資金額(※) | 1口100万円程度~ | 1口数万円程度~ |
運用期間 | 約10年~数10年 | 数か月程度~10年以内 |
特徴 | ・相続への取り組みとして活用可能 ・長期運用で安定収益を得られる | ・少額から投資可能 ・短期運用が多い |
不動産特定共同事業を行うには許可が必要
事業者が上記で述べた不動産特定共同事業を行うには、原則、国土交通大臣か都道府県知事の許可を得なければなりません。この不動産特定共同事業法は、1995年4月の施行から2013年、2017年、2019年の3度に渡って改正が行われています。
事業主には、事業内容や許可に必要な出資額によって、4つの種別に分けられています。
種類 | 認可に必要な出資額 | 事業内容 |
---|---|---|
第1号事業者 | 1億円 | 不動産特定共同事業契約を締結しており、契約に基づいて運営し、収益を直接分配する事業者 |
第2号事業者 | 1,000万円 | 不動産特定共同事業契約の締結を代理か媒介する事業者 |
第3号事業者 | 5,000万円 | 不動産特定共同事業契約に基づいて委託運営し、不動産取引業務を行う事業者 |
第4号事業者 | 1,000万円 | 不動産特定共同事業契約の締結を特例事業者に代わって行う事業者 |
また、表には当てはまらない「特例事業者」という事業者も存在します。
不動産特定事業者・認可宅地建物取引業者・不動産投資顧問業者のことを指します。
なお、事業者が許可を受けるためには、以下の5つの要件をクリアしておかなければなりません。
①投資家からの出資額が、各事業者に必要な額を上回っている
②宅地建物取引業者免許を取得している
③不動産特定共同事業を行うための財産的基礎があり、適切に事業を遂行できる人的構成がある
④不動産特定共同事業で定める契約約款の基準を満たしている
⑤事務所に業務管理者を配置している
これらを全て満たしている事業者のみ、許可を受けることができます。
※詳細については関係法令を参照してください。
なお「業務管理者」とは、宅地建物取引士等の資格を有することに加えて、不動産特定共同事業の実務経験が3年以上、公認不動産コンサルティングマスター、ビル経営管理士、不動産証券化協会認定(ARES)マスター、のいずれかに該当している人材でなければなりません。
過去の法改正について
不動産特定共同事業法は1995年に制定されてから、不動産特定共同事業の更なる発展のために、3度の改正が行われています。3度目の改正である2019年については、最新のものとして前述で述べているため、ここではその他の改正後にあたる、2013年と2017年の内容について解説します。
2013年の改正ポイント
1995年に不動産特定共同事業法が施行された当初、第1号事業を行うためには許可を得る必要があり、許可要件の一つとして宅地建物取引業法上の免許を得る必要がありました。しかし、2013年には新たに「適格特例投資家限定事業」が創設され、不動産を証券化するなど資金を流動化することを目的としたSPC(特定目的会社)主体となる不動産ファンドの組成、運用が可能になりました。
2013年の改正では、この「適格特例投資家限定事業の創設」が大きなポイントとなりましたが、税制面や制度面での課題は無くならず、後に2017年、2019年にも改正が行われます。
2017年の改正ポイント
近年活性化を見せている不動産クラウドファンディングは、不動産業界においても急速に発達しています。しかし、不動産特定共同事業法の規制により、クラウドファンディングの導入が難しいケースも少なくありませんでした。
そんな状況が続く中なか、不動産事業者などが幅広く参入できるようにするため2017年の改正で「小規模不動産特定共同事業」の創設と特例事業の事業者参加の範囲が拡大されました。これにより、一定規模以下の不動産特定共同事業を行うための要件を緩和し、クラウドファンディングの導入の障壁を取り除くことで、さらなる発展が期待されました。
加えて、書面交付の方法に関する制度が整備されました。「クラウドファンディング」とは、事業者と投資家をインターネット経由で結びつけ、出資金をインターネット上で集う仕組みです。2017年に改正が行われる以前は、取引にあたって書面を交付する必要がありました。そのためインターネット上で手続きを完了することができず不動産特定共同事業をクラウドファンディングで行うことは困難でしたが、改正により新たにオンラインで取引を行うことが認められました。
実際に、書面だけではなくオンラインでも取引が可能になったのは、「契約の成立前および成立時に交付される書面」と「財産管理状況報告書」の2種類です。双方の承諾と一定の要件を満たしていれば、書面交付ではなくオンラインでも取引を行うことができます。
一方で、詐欺などに悪用されるケースも多く、投資家から不安視する声も多く上がっていましたが、2017年の法改正により、インターネットを介して不動産特定共同事業契約を締結する場合「電子取引業務」として扱われ、業務管理体制の整備義務を設けるなど、投資家保護の規定が定められています。
このように、投資家の保護を徹底しつつ、クラウドファンディングという新しい形態での取引を認可することで、小規模の不動産事業者に対しても不動産特定共同事業が行いやすくなりました。
そして、2019年には不動産特定共同事業の発展を目的とし、ガイドラインの策定や関係法令の改正が行われています。その改定の1つに、「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインの策定」も含まれています。投資家を保護するため、事業者に対して明確な規則が定められたことにより、不動産業界でのクラウドファンディングは更なる発展が期待されるでしょう。